産業能率大学 スポーツマネジメント研究所

サッカービジネス 浦和レッズの成長と将来

  今回の授業では、サッカービジネスについて学ぶ2回目の実践講座として、浦和レッズの白戸氏をお招きして、「浦和レッズの成長と将来」と題してお話を伺った。

 
 浦和レッズの歩みスポーツビジネス実践講座A

 今や、日本に留まらず、アジアを代表するクラブチームとして栄華を誇る浦和レッズであるが、決して現在に至るその道のりは平坦なものではなかった。1993年のJリーグ開幕からリーグに参戦するも、なかなかサポーターの期待する成績を挙げることはできなかった。1999年には年間順位で15位となり、J2降格を体験している。
 現在の浦和レッズの栄光を辿るターニングポイントになったのは、2003年に、前年に社長就任した犬飼犬飼基昭氏が、強力な選手補強やクラブハウス改築、親会社依存経営からの脱皮を目指したことである。そこでまず手がけたことは、浦和レッズに対する意識調査である。「なぜ浦和レッズが好きなのか」という単純な問いかけに、「ゴール裏・スタジアムの雰囲気が良い」、「好きな選手がいる」という回答が多くあった。
 この結果から浦和レッズに求められているのは、日常生活からかけ離れた体験をできる空間や環境であることが窺えるが、当時も実際に「生活にスポーツ、生活にサッカー、生活にレッズ」という方針をもって、サッカークラブとして、スポーツビジネスとしての浦和レッズの成長を目指し、グローイングスパイラル(成長循環)のビジョンを描き、実行に移した。そして、その成果は、早くも2003年のヤマザキナビスコ杯(優勝)でチーム成績として結実することとなった。

 

グローイングスパイラル(成長循環)

スポーツビジネス実践講座 浦和レッズの熱狂的なサポーターは有名であるが、2003年の入場料収入が16億円余りであったものが、2007年には30億円超えの売り上げを計上したのは、単に「サッカーの街浦和」という地の利だけの要因でないことは、想像に難くない。犬飼氏率いる浦和レッズは、スポーツビジネスとしてのクラブ経営を分析した。そこから見えてきたものは、全国に胸を張って誇れる市民やサポーターたち、そしてハードの整備と華のある選手強化を土台と基点にした、グローイングスパイラルとしての経営戦略である。浦和レッズのグローイングスパイラルの1stステージを具体的に示せば、設備投資やチーム投資を行い、強くて魅力あるチームづくりを行った結果、入場料を起点とする循環的収入増加(入場料の増加はグッズの売り上げを伸ばし、結果として広告料収入の増加が見込める)がもたらされるということになる。もちろん、この経営戦略が軌道に乗った要因としては、浦和レッズのホームスタジアムとして駒場スタジアム(2万人規模)と埼玉スタジアム(6万人規模)を併用できるようになったことが挙げられるが、競技場という器を大きくしただけで入場者数が増えるほどスポーツビジネスは甘くない。そこで、浦和レッズでは、グローイングスパイラルの2ndステージとして、クラブ経営の質的向上を目指した、人材強化や育成に着手している。そして、経営基盤のさらなる強化や再投資を行い地域還元の原資を獲得することで、地域に溶け込むクラブとなるべく経営努力を行っている。その活動指針の具現化策として、「アジア進出」と「レッズランド」の設立があった。

  中期戦略「AAA(トリプルA)プラン」

 レッズのネクストステージの主眼は、徹底的な地域との密着である。地域における「観るスポーツ」や「するスポーツ」は青少年育成や生涯スポーツの推進、さらには地域コミュニケーションの活性化につながる。そこでレッズは、より地域文化に根ざした総合型スポーツクラブ作りに着手するために、「レッズランド」という場の提供と優秀なコーチの招聘を行った。特に、青少年育成という目的に対しては、浦和レッズが主宰する「ハートフルクラブ」を設立した。ハートフルクラブでは、小学生のうちはスポーツ技術よりも人の気持ちを理解でき、思いやりに溢れた、コミュニケーションの図れる子どもの心を育むことを大切にしている。こうした活動は瞬く間に評判を呼び、その活動は、中国、UAE、インドネシアなどのアジア諸国でも評判となった。そして、AFCチャンピオンズリーグのタイトル奪取との相乗効果により、浦和レッズのブランドイメージは一気に向上していった。

スポーツビジネス実践講座 実は、浦和レッズのアジア進出は、AAA(トリプルA)プランという中期戦略に沿っているものである。トリプルAの意味するところは、Asia No.1(強くて魅力あるチーム)、Area Only 1(地域の誇りあるクラブ)、Accountability 1st(自立し責任あるクラブ)を目指すというものである。そして、この戦略を進めるにあたって、浦和レッズは、少子高齢化、成熟社会、価値観の多様化、地域自立、Jリーグ百年構想、地域公共財としてレッズ、高変動性のビジネスなどのキーワードを見据えながら、ネクストステージの環境確認を行うとともに、新ビジネスモデルの追求を始めている。

 今回の講座では、浦和レッズの「成長」と「将来」をテーマに白戸氏に講義して頂いた。最後に白戸氏は、今日話した内容は過去であり、浦和レッズはすでに次の新たな局面に直面しているとともに、この事例をモデル化して各チームに当てはめれば必ず成功すると言うものではないと話された。日本のスポーツビジネスの最先端を行く浦和レッズの司令塔とも言うべき白戸氏のお話を伺い、サッカービジネスの奥深さと醍醐味を感じる時間となった。

中川直樹