北京オリンピック研究 -アスリートの好感度分析- 1:研究の背景
本研究の主眼は、「アスリートの評価」と「観戦者のスポーツ嗜好」との関連性の分析にあり、その分析を実証的に行うための最適な題材として注目したのが、2008年8月に開催された北京オリンピックである。本研究に関しては、研究所HPで順次、進捗状況の報告を行う予定である。その第一弾となる本稿では、研究背景となった調査・分析フレームのモデルと、それらを基に新たに考案したオリジナルのモデルの概要を説明し、調査の実施方法について記述する。
1.1 はじめに
北京オリンピックが研究の題材として最適である理由を3点述べるなら、以下のようにまとめられる。
(1) 日本代表選手は日本オリンピック委員会(JOC)から公式に認定されるため、分析対象となるアスリートの"網羅性"を満たすことができる。
(2) 開催期間は、2008年8月8日(金)に開幕、同月24日(日)に閉幕と明確であり、調査の"期間設定"に恣意性が伴わない。
(3) 特定のスポーツジャンルならば調査対象を限定しなければならないが、国民的に極めて注目度の高い行事であるため、"世論調査"のフレームをそのまま採用できる。
1.2 分析フレームの構築
本研究の背景となる基底的なフレームは、「期待 - 一致/不一致モデル」(eg. Oliver 1980)から得た。このモデルは本来、商品購入時の消費者満足プロセスの解明に用いられるモデルであるが、当該モデルにおける消費者を「スポーツ観戦者」に、商品を「スポーツ選手」に置き換えれば、同型のフレームとして、スポーツ大会の前後における選手評価の比較分析に応用できると考えられたからである。
しかしながら、多種多様なアスリートをわずか2つの入力成分だけで十分に評価することは難しい。そこで補足的に参照したモデルが、Funk et al.(1999)の「観戦者の4Aモデル」である。このモデルにおける4つのAとは、観戦者の関与度が時系列的に上昇する際の4ステージである (1) Attention(注意) → (2) Attraction(興味) → (3) Attachment(愛着) → (4) Allegiance(忠誠) から、それぞれの頭文字を取ったものである。
4Aモデルは示唆に富むが、競技場に足を運んで観戦するサポーターの分析フレームであるため、本研究がテーマとする北京オリンピックの分析へは、そのまま応用することができない。なぜならば、当該五輪の開催期間は短期間でありAllegiance(忠誠)の醸成まで至るとは想定できず、また観戦行動も、そのほとんどがテレビ観戦に限定されるからである。
したがって4Aモデルの派生形として「テレビ観戦者の4Aモデル」(小野田2008)を新たに考案した。このモデルにおける4つのAとは、(1) Attention(注意) → (2) Attraction(興味) → (3) Audient(視聴) → (4) Admiration(賞賛) を指す。ただし根源的に依拠したモデルが「期待 - 一致/不一致モデル」であることから、新モデルの4つのステージを日本語では、 (1) 認知 → (2) 期待 → (3) 視聴 → (4) 満足と表現したい。なおAudientはAudience(視聴者)からの造語である。
1.3 調査の実施
上記分析フレームに基づき、五輪の開幕直前(2008/8/5 - 8/6)と閉幕直後(2008/8/26 - 8/27)の2回に分けて、インターネットを利用した社会調査を実施した【表1-1】。五輪前の調査では「知っている(認知)」選手をまず尋ね、該当選手に限定した上で「テレビ中継をどのくらい見たいか(期待)」を質問した。他方五輪後の調査では「テレビ中継を見た(視聴)」選手をまず尋ね、該当選手に限定した上で「テレビ中継を見て良かったか(満足)」を質問した【図1-1】。
インターネット社会調査に関しては、その代表性をめぐる議論がいまだに尽きないが、以下2つの理由から、現実的にこの方法以外での調査の実施は困難と判断した。
(1) JOCから最終的な代表選手認定が発表されたのは2008年7月24日である。開催わずか2週間前であるため、インターネット以外の調査法では、予備調査および五輪前調査の実施は不可能である。
(2) 調査項目となる日本代表選手の人数は、男子170名・女子169名の計339名と厖大である。クリック一つで回答でき、絞り込み質問も自動化できるインターネット調査でもなければストレスが高すぎ、被調査者に回答を拒絶される恐れがある。
このような選手に対する関与度質問だけでなく、視聴者自身のスポーツ嗜好に関する質問も併設しているが、その詳細については追って報告したい。なお次回第二弾は、社会的関心の時系列変化に基づいた「日本代表選手の評価分類」について取り上げる予定である。
表1-1.五輪前・五輪後調査の性別・年齢構成
※ キャリーオーバー効果を防ぐ目的から、各回は別モニターで実施。
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References
[1] Funk, D., J. Gladdren, D. Howard, J. James, L. Kahle, R. Madrigal, D. Mahony, M. Nakazawa, and G. Trail (1999), "Understanding the Sport Spectator and Sport Fan: The Three A's to Allegiance", North American Society for Sport Management: Paper Presentation, Vancouver, Canada.
[2] Oliver, R. L. (1980), "A Cognitive Model of the Antecedents and Consequences of Satisfaction Decisions" Journal of Marketing Research, 17(Nov), pp.460-449.
[3] 小野田哲弥 (2008), 「社会的期待 - 一致/不一致モデルに基づくアスリートの評価分析 -北京オリンピック日本代表選手の構造化とブログ・マイニング-」,日本マーケティング・サイエンス学会第84回研究大会, 株式会社電通 電通ホール, 東京.
**本稿に関するお問い合わせは以下へお願い致します**
小野田 哲弥(おのだ てつや)
産業能率大学 情報マネジメント学部 専任講師
E-mail: onoda@mi.sanno.ac.jp
