2.4 レイヤー内クラスタリング
レイヤー分割により、関与度の"総量"が同水準の選手同士に3区分された。次に、レイヤー内の選手間で4変数の大小を比較することにより"質"的な差異の分析を行う。分析対象数の縮減も目的として、4変数の傾向が類似した選手同士をレイヤーごとに自動分類(クラスタリング)する。クラスタリング技法も諸種存在するが、本件では「自己組織化マップ」のアプリケーションソフトウェアViscovery SOMineを用いた。
当該ソフトにおけるWard法の最適化指標に基づいてクラスタ数を確定した結果、レイヤー1では22選手が12クラスタに、レイヤー2では59選手が23クラスタに、レイヤー3では128選手が38クラスタにそれぞれ分類された。レイヤー内クラスタリングにより、分析対象のオブジェクト数は、209選手から73クラスタに縮約されたことになる。
【図2-2】は、レイヤー1における、選手分類と4変数の対応関係の可視化であり、暖色系ほど関与度が高く、寒色系ほど関与度が低いことを意味する。これと同様のクラスタリングを、レイヤー2とレイヤー3に対しても実行した。
前回は、本研究の背景となった調査・分析モデルと、それらを基に新たに考案したオリジナルモデルの概要、および調査の実施方法について説明した。第二弾となる本稿では、北京五輪の開幕直前(8/5-6)と閉幕直後(8/26-27)に実施したインターネット社会調査結果を基に、どのようにして日本代表選手を分類したのかという分析手順について説明する。回収データの解析については「柔らかい構造化モデル」(小野田2007)を利用した。
2.1 柔らかい構造化モデル
柔らかい構造化モデルは、厖大なアイテムにより構成されるロングテール(Anderson 2004)データの「見える化」(遠藤2005など)を実現するために開発された、データマイニングの方法論である。
「ロングテール」とは、あるカテゴリー内の商品を、横軸に順位、縦軸に量(認知率であったり、売上金額であったりと量の尺度は様々である)をとって降順に棒グラフ化した場合に、その形状が「長いしっぽ」のようになることからAnderson が命名したコンセプトである。従来のマーケティングでは売れ筋(ヘッド)を念頭に販売戦略が練られたが、インターネット時代のマーケティングでは、マイナー商品(テール)の価値の総和は「塵も積もれば山となる」の例えの如く、ヘッドにも匹敵するとの含意がある。
この商品マネジメントに関するリベラルな発想をアスリートに対しても向けるのであれば、五輪前にすでに有名であった選手(ヘッド)のみならず、ほとんど無名に等しかった選手(テール)をも、余すところなく分析対象とすることが肝要となる。その視点に立ち、本研究では日本代表選手339人全員を調査票に盛り込んでいる。
柔らかい構造化モデルの一般的なプロセスと、本研究独自のプロセスとの対応関係を示したものが【表2-1】である。このモデルは5つのプロセスによって構成されるが、1の「インターネット調査」の必要性と具体内容については、前稿において既述した。
本研究の主眼は、「アスリートの評価」と「観戦者のスポーツ嗜好」との関連性の分析にあり、その分析を実証的に行うための最適な題材として注目したのが、2008年8月に開催された北京オリンピックである。本研究に関しては、研究所HPで順次、進捗状況の報告を行う予定である。その第一弾となる本稿では、研究背景となった調査・分析フレームのモデルと、それらを基に新たに考案したオリジナルのモデルの概要を説明し、調査の実施方法について記述する。
1.1 はじめに
北京オリンピックが研究の題材として最適である理由を3点述べるなら、以下のようにまとめられる。
(1) 日本代表選手は日本オリンピック委員会(JOC)から公式に認定されるため、分析対象となるアスリートの"網羅性"を満たすことができる。
(2) 開催期間は、2008年8月8日(金)に開幕、同月24日(日)に閉幕と明確であり、調査の"期間設定"に恣意性が伴わない。
(3) 特定のスポーツジャンルならば調査対象を限定しなければならないが、国民的に極めて注目度の高い行事であるため、"世論調査"のフレームをそのまま採用できる。
1.2 分析フレームの構築
本研究の背景となる基底的なフレームは、「期待 - 一致/不一致モデル」(eg. Oliver 1980)から得た。このモデルは本来、商品購入時の消費者満足プロセスの解明に用いられるモデルであるが、当該モデルにおける消費者を「スポーツ観戦者」に、商品を「スポーツ選手」に置き換えれば、同型のフレームとして、スポーツ大会の前後における選手評価の比較分析に応用できると考えられたからである。
しかしながら、多種多様なアスリートをわずか2つの入力成分だけで十分に評価することは難しい。そこで補足的に参照したモデルが、Funk et al.(1999)の「観戦者の4Aモデル」である。このモデルにおける4つのAとは、観戦者の関与度が時系列的に上昇する際の4ステージである (1) Attention(注意) → (2) Attraction(興味) → (3) Attachment(愛着) → (4) Allegiance(忠誠) から、それぞれの頭文字を取ったものである。
4Aモデルは示唆に富むが、競技場に足を運んで観戦するサポーターの分析フレームであるため、本研究がテーマとする北京オリンピックの分析へは、そのまま応用することができない。なぜならば、当該五輪の開催期間は短期間でありAllegiance(忠誠)の醸成まで至るとは想定できず、また観戦行動も、そのほとんどがテレビ観戦に限定されるからである。
したがって4Aモデルの派生形として「テレビ観戦者の4Aモデル」(小野田2008)を新たに考案した。このモデルにおける4つのAとは、(1) Attention(注意) → (2) Attraction(興味) → (3) Audient(視聴) → (4) Admiration(賞賛) を指す。ただし根源的に依拠したモデルが「期待 - 一致/不一致モデル」であることから、新モデルの4つのステージを日本語では、 (1) 認知 → (2) 期待 → (3) 視聴 → (4) 満足と表現したい。なおAudientはAudience(視聴者)からの造語である。
スポーツマネジメント研究所では、本学のプロスポーツチームとの協力関係を活かしながら、スポーツとマネジメントに関する様々な研究を進めています。「研究報告」では、スポーツビジネスとマネジメント教育研究機関のコラボレーションによる実践的研究について紹介していきます。